大きな花束


投稿:女性

これは、去年のお盆に起きたお話です。

我が家では、休日が忙しいという父親の仕事の関係で、お盆だからといって
家族でお墓参りに行くような家ではありません。
去年のお盆も、例年と同じように、私は何事もなく、
暑苦しいなかバイトに行っていました。

その日のバイトが終わったのは、夜中の1時過ぎ。
電車もなくなり、仕方なく家までタクシーを拾って帰ることにしました。

普段なら、家まで25分ぐらいの道のりなのですが、お盆ということもあって、
10分ぐらいで見慣れた景色が広がり、家の近くにまできました。
バイト先から、ずっと大通りを通ってくるのですが、途中にはいくつか
お寺やお墓があって、人通り、車通りともに少なく、運転手さんと
「お盆だし、余計に不気味だね」と、話をしていた時でした。

前方から、とても大きな花束を担いだおばあさんが、自転車を押しながら、
こちらへ向かってやってきたのです。

運転手さんは、
「きっと旦那さんが亡くなったんだろうね。
 あの大きな花束だって、きっと仏壇用のお花なんだろうね。
 きっと1人で寂しいんだろうよ。
 なんせ、あんな大きな花束持ってるぐらいだもん」
と、運転手さんも私も思わず目を疑ってしまうような、白い紙で巻かれた
大きな花束を担いだおばあさんがいたのです。

私は、そのおばあさんがとても気になってしまい、ずっと車の窓からおばあさんを
見てしまいました。

夜道に、車のライトは眩しかったらしく、車が近づくとおばあさんは
自転車を持ったまま立ち止まり、眩しそうな顔でこちらを見ました。

そして、おばあさんと車がすれちがう瞬間。
私はおばあさんと目が合ったような気がしたと同時に、急におばあさんが
その道からいなくなってしまったのです。
勿論、その道の途中に横道などはありませんでした。

しばらくは、あまりの驚きに声を出すことすら出来ませんでした。
少し落ち着いてから、車の中から後ろを振り返ると、やはりそこには誰もいないのです。
自転車も、花束も、おばあさんも・・・。
何もなかったのです。

運転手さんに、この事を話して、今まで来た道を引き返してもらいました。
ゆっくり走ってもらって、横道などを確認しましたが、何もありませんでした。
おばあさんの家らしきものもありませんでした。
おばあさんが消えたあたりには、ただ駐車場があるだけです。

運転手さんと、私はだんだんと恐くなってきて、急いでその場を
立ち去ることにしました。

あれから何度かあの道を通りましたが、おばあさんには逢っていません。
お盆だったので、あの世から帰って来ていたのでしょうか?
そして、自分に備えられたお花をまとめて持っていたのでしょうか?

あの時は、思い出したくもない恐い体験でしたが、今はあのおばあさんを
もう1度この眼で見て、確かめたいという気持ちで一杯です。



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